2010.07.22

第103回 (A) IFRSの自社、自主適用に触れた衝撃【経営・会計最前線】

株式会社ディーバ 代表取締役社長 森川 徹治

IFRSが経営を根本から変えるきっかけとなる。そんな話がさまざまなメディアで取り上げられるようになっても(自らそのようなことを話していても)ディーバ社自身がまだ国内ビジネスのみの小さな企業であるためか、正直なところ今ひとつ実感が沸いてくることがありませんでした。とある新聞でIFRSの導入がグローバルビジネスにおいて競争力を失っている日本企業が再生する一つのきっかけとなるというコラムを読んだときなど、「そうじゃないだろう、日本企業は必死に生き残りをかけて努力しているはずだ、IFRS頼みなどありえない」と悔しくて涙が込み上げてくる始末でした。

IFRSの導入は確かにグローバル化の要素の一つですが、IFRSの導入で国際競争力が回復するというのは違和感以上に拒絶感さえ覚えます。グローバルに通用する企業は、グローバルに通用するビジネスモデルへの変革と、したたかな成長戦略の遂行力向上が本分であり、IFRSなど単なるツールにすぎません。IFRSについて欧州やシンガポールの企業で聞いてきた話では、自らのビジネスを有利に経営するためにどのように活かすかという視点が前面にでています。IFRSを導入していることでビジネスがプラスになるからやるのであり、マイナスになることはしないという合理的な考え方です。主体的に取り組むという姿勢からでしょうか、決して振り回されているようには感じませんでした。

日本が鎖国を解き当時の欧米列強中心の経済社会に参加するために注力したことの一つが国際法の遵守であったとなにかの本で読みました。徳川幕府が結んでしまった不平等条約の改定にはなみなみならぬ努力があったそうですが、改定条件の一つが欧米並みの民法を備えることだったそうです。そのためにひたすら翻訳し、急ごしらえながら欧米並の法律を持つことができました。しかし、習慣が異なる外国の法律です。その精神までは残念ながら翻訳し体得することができません。結果、法そのものの解釈が苦手で事例や判例に基づく法適用が中心となり、法治国家として優等生と言われつつも、したたかに欧米列強と真に対等な関係を築けたわけではなかったと言います。現在の私たちのIFRSに対する受け止め方と似たものを感じます。

IFRSは日本の会計基準ではありません。しかも、国際会計基準ではなく、国際財務報告基準です。以前度量衡にたとえたこともありましたが、理解を進めるにつれ、会計基準という度量衡というよりも、いかに財務報告を行うかというアカウンタビリティ(説明責任)に注力しているものだとわかってきました。しかも、この基準には英米流のビジネス精神が宿っています。IFRSのデファクトスタンダード化は、英米流のビジネスプロトコルのデファクトスタンダード化でもあります。経営者にとってIFRSの導入とは英米流のビジネスプロトコルで説明責任を果たすことを意味します。もちろん各社、各国の独自性は欠かせません。しかし、グローバルでビジネスを行うためには、商習慣を含む社会的習慣の違いを超えたプロトコルが必要です。その一つとしてIFRSがあると言えます。

ところで、冒頭でお話したように、ちょっと前の新聞コラムを読んで涙した私ですが、実はディーバ社で現在進めているIFRS自社適用の過程でIFRSの価値を体感し、少し考えをあらためました。きっかけは包括利益や資産除去債務など、同じ項目でも、日本基準のコンバージェンスとIFRSでは数値の差異以上に両者の基本精神の違いを、実感を伴って理解することができたことです(詳細は別の機会に・・・)。
私にとっては差異分析結果の数値やそれを計算する上でのプロセスへの影響以上に、グローバルビジネスと日本の商習慣の違いを体感することの意義は大変大きなものでした。少しはわかっていたつもりだっただけにこのリアル感は衝撃的でした。頭で理解するのと身体で理解するのは違うと言いますが、まさにそれかもしれません。

真のグローバルビジネスは実践を通してしか学ぶことはできないでしょう。しかし、なんでもかんでも実践のみから学ぶのではあまり効率的ではありません。真剣にグローバルで通用するビジネスをしようと考えるなら、最近メディアを賑わせた企業公用語の英語化と同様、効率よく英米流のビジネスプロトコルを学習する手段としてIFRSを導入するという考え方もあると思います。

ただし、あくまでIFRSはツールです。使い手の技量次第であることは変わりません。ツールに使われないように、使いこなせるだけの技量を磨くためにも、積極的に自主適用することも手段の一つかもしれません。経営に近い方々ほど、早めにIFRSにふれ、その根本にある習慣や精神の違いをしっかり体得することが実はもっとも優先すべきことではないかと感じます。

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