2010.07.22

第103回 (B) 使ったお金は返ってこない【経営・会計最前線】

社長室 IFRS推進委員長 シニアディレクター 公認会計士 斎藤 和宣

企業活動においても家計においても、また個人のレベルでも、使ってしまったお金は返ってこない(過ぎてしまった時間も返ってこない)というのは、ほぼ常識的に私たちは理解しているはずです。ところが、さまざまな局面で「じゃあ、これからどうしよう?」と考えるとき、私たちはついつい「これだけお金を使ったたんだし」「あれだけの時間をかけてやったきたことなんだから」と、過去に消費してしまったことに縛られているということがよくあります。
ただ本来は、特に企業であれば過去の結果は重要でなく、将来のキャッシュフローを最大化することだけが判断基準になりうるはずだと考えています(当然ながら事業の評価においては、過去のキャッシュフローを含めた採算性や効率性を考えることが必要なのは変わりありません)。

ところで、IFRSの導入は企業にとって現在最も影響の大きな重要課題で、そのIFRSの特徴の一つは貸借対照表を重視した基準であると言われていますが、ここで、全く個人的な見解ではありますが、IFRS時代の新しい貸借対照表を考えてみましたのでご説明したいと思います。

IFRSにおける価値測定では、将来のキャッシュフローから算定するというのが基本にあると考えています。つまり、過去の入出金に基づくのではなく、将来の入出金を今評価するといくらになるのかという考え方です。ところが、例えば減損会計が取り入れられてはいますが、固定資産は過去取引した購入金額がその測定の要素の中に含まれてしまっています。そこで、すべての資産・負債を将来のキャッシュフローから測定することを徹底するのが、IFRS時代の貸借対照表なのではないかと考えました。過去の活動を基準とした財務諸表をどれだけ工夫しても限界があり、投資家にとって有用な情報を提供するには将来だけに注目する必要があるのではないかと思われるからです。言い換えると、会社の持つ資産は支払った金額で測定するのでなく、そのかわりに手に入れたものをどれだけ活かせるかで測定しようというものです。イメージにすると下図になります。

特徴的なところは「事業資産」と「人財資本」、およびそれによって変動する「金融資本」です。「事業資産」はその名の通り、各企業にとって事業から獲得されるキャッシュフローを現在価値に置きなおしたものです。ただし、人財を資本と考えることから「事業資産」を考えるにあたってのキャッシュフローからは、人財に関わるキャッシュフローは控除しないことにしています。
次に「人財資本」ですが、将来の人財に関わる支出(平たく表現すると人件費相当になりますが)から求められ、結果として資産・負債の差額として「金融資本」を表現することになります。これまでもずっと、人財をいかに財務諸表に表現するかは個人的なテーマでしたが、この貸借対照表で「事業資産」の概念を取り入れる際にこのテーマも一つの解の方向性が見えてきました。

以上、簡単に説明しましたが、まだまだ考え方や具体的な方法を精緻化する必要が多々あるものと思っています。とくに、事業資産の算定における適切なレベルの客観性、信頼性を持たせるかというのは、重大な課題だと考えています。また、事業資産の源泉が何であるのか(企業のもつ技術なのか、ノウハウなのか、あるいは顧客なのかなど)を示すために、事業資産の内訳を表現できるとさらに有用な情報になるだろうと考えています。
引き続き考察を進め、進化した貸借対照表をあらためてご紹介できる機会があればと思っています。

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