2011.11.09

第134回 (A) 実現しない未実現【経営・会計最前線】

第一事業本部 シニアマネージャ 森 真平

私事で恐縮ですが、初めて連結決算システムに触れたのが1999年でした。実家の隣の娘さんは、当時、小学校の低学年でしたが、先日、実家に帰った際に車を運転していて驚きました。月日の流れは早いものです。今回は、連結決算の中でも、「投資と資本の消去」の次に特徴的な連結手続きである「未実現損益の消去」をテーマに、いくつかご紹介したいと思います。
なお、文中の意見に関わる部分は私見であり、弊社の公式見解ではありません。

1.日本の未実現損益の消去と違和感
2.管理会計の未実現
3.実現しない未実現

1.日本の未実現損益の消去と違和感

現在、日本の会計基準では、企業会計基準第22号「連結財務諸表に関する会計基準」の「損益計算書の作成基準」の中に「未実現損益の消去」として「36.連結会社相互間の取引によって取得した棚卸資産(棚卸資産の棚の字が漢字になりました。)、固定資産その他の資産に含まれる未実現損益は、その全額を消去する。ただし、未実現損失については、売り手側の帳簿価格のうち回収不能と認められる部分は、消去しない。」、「売り手側の子会社に少数株主が存在する場合には、未実現損益は、親会社と少数株主の持分比率に応じて、親会社の持分と少数株主持分に配賦する。」と規定されています。

過去を振り返ると昭和30年代の末頃に頻発した粉飾決算事件の防止策として、未実現損益の消去の必要性は、連結財務諸表の制度化を推し進めました。換言すると未実現損益の消去の手続きは、制度会計に求められる利益操作を防止し財務諸表の信頼性を確保する点が重視されているように思えます。

また、会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」では、「46.連結会社間の棚卸資産の売買及びその他の取引に係る未実現損益は、売却日に売却元で発生する。このため消去すべき未実現損益は、取得時又は発生時の為替相場で換算する」、「国内会社が減価償却資産を在外子会社等に売却したことにより発生する減価償却資産の売却損益は未実現損益として消去した後、在外子会社等における減価償却により部分的に実現することとなる。在外子会社等で計上した減価償却費の円換算額は為替相場の変動の影響を受けるが、未実現損益の円貨額は売却年度で確定しているため、未実現損益の戻入(実現)額は為替相場の変動を受けず、在外子会社等における当該減価償却資産の減価償却方法及び耐用年数等に基づき規則的に戻し入れる。」と規定されていて未実現損益は、原則として「売却時に円貨で確定している」との考えを採用しています。
確かに実務的な実行可能性を考えると妥当な処理と思われますが、未実現損益を円貨で確定させてしまうと、実現時の損益計算書がきれいにならない感じがして若干の違和感を覚えます。

例えば、親会社から子会社A社に期末に機械装置を1,000ドルで売却したとします。
設例を簡単にするため税効果は無視し、償却も残存価額を0円、5年の定額法で全額償却とします。

資産売却価額 1,000ドル
売却時の為替相場 100円
翌期の期中平均相場 75円
親会社の取得原価 80,000円
売却時の未実現損益 20,000円
子会社の親会社持分比率 60%

【売却時の消去仕訳】

固定資産売却損 20,000円 機械装置 20,000円
【翌期末の消去仕訳】(会計的な仕訳として)

-開始仕訳-

期首その他利益剰余金 20,000円 機械装置 20,000円
-実現仕訳-

機械装置減価償却累計額 4,000円 機械装置減価償却費 4,000円

※販売会社が親会社(100%)のため少数株主持分への振替は無し。

となります。制度会計上はこれで正しいのですが、若干の違和感が残ります。
例えば極端な話、子会社側では当期の損益計算書項目が機械装置の償却だけだったとします。
そうすると

損益計算書:機械装置減価償却費 200ドル(1000ドル÷5年)
税引等調整前当期純損失 200ドル

となります。これに円換算を2期目の期中平均相場で換算すると

損益計算書:機械装置減価償却費 15,000円
税引等調整前当期純損失 15,000円
少数株主損失 (貸方)6,000円

となります。
これにさらに、連結消去仕訳を加味すると

損益計算書:機械装置減価償却費 11,000円(15000円-4,000円)
税引等調整前当期純利益 11,000円
少数株主損失 (貸方)6,000円

そもそも、外貨ベースでの未実現200ドルを除いた取得原価は800ドルであり、これを償却した場合、160ドル(800ドル÷5年)となります。これに当期の期中平均為替相場75円を乗じると12,000円となるのですが、上記11,000円との結果に差異が発生します。

【外貨ベースで未実現を消去した損益計算書】

損益計算書:機械装置減価償却費 160ドル(800ドル÷5年)
税引等調整前当期純損失 160ドル

【外貨ベースで未実現を消去して円換算した損益計算書】

損益計算書:機械装置減価償却費 12,000円
税引等調整前当期純損失 12,000円
少数株主損失 (貸方)4,800円(12,000円×40%)

これは為替相場の変動の影響が原因です。また、上記のように少数株主持分への振替についても、子会社側の税引前損失が減少したのだから、少数株主損失もその分減額したいところですが、販売会社側の持分比率のみを考慮するため少数株主損失は調整されません。制度決算実務としては、些細な問題とは思いますが、今後システムの発展により実行可能性が確保されれば上記のような違和感がいつか解消されるような会計処理が採用されるかもしれません。

2.管理会計の未実現損益消去の処理

管理会計として未実現損益を考える場合、制度会計に従う必要はないため様々な考えがあります。いくつかご紹介したいと思います。

(1)制度会計に準じるケース
管理会計の目的が開示の見通し数値の作成の場合はこちらが採用されます。
見込み情報を含むため簡便的な数値の算定をされているケースも多いです。
前年度末に発生している未実現の当期実現分と当期に売却済もしくは売却予定のある大きな取引の未実現を消去する等の手続きとなります。

(2)未実現損益は消去しないケース
管理会計上は、未実現損益は消去しない。これは2つの考え方があります。
1つめの考え方は、未実現損益は重要性も無く管理数値は迅速な報告が求められるため消去しない。つまり、子会社利益の単純合算がグループの利益とする考え方です。管理の目的からするとこれで十分のケースも実際多く、連結決算を開示している上場企業3,400社で考えるとこちらの方が多いのかもしれません。また、ある会社では、未実現損益は、期首の洗替分と期末分が相殺され期首も期末も在庫も利益率も大きく変わらないから管理会計上は消去しなくても良いと考える会社もあるようです。
2つめの考え方は、企業グループ内でものが移転する中で価値の生成が段階的に完了しているとする考え方です。工事進行基準みたいですね。例えば、グループ内と外部への一般売上の両方の商流がある場合に、材料を仕入れて加工し原価90万円の製品を110万円で売却した場合、どちらに売却した場合も110万円の価値の生成は完了していると考えます。そのため当該未実現消去(110万円で仕入れた会社に残る在庫)については、管理会計上、未実現損益を消去しないと考えます。
仮に、売却会社側で未実現損益を消去した管理会計の数値が業績評価に用いられるとした場合、売却先がグループ外部の場合は利益として計上し、売却先がグループ内の場合は消去するとすると、その意図の有無に関わらず当該売却会社へのメッセージとして外部売上を推奨することになってしまいます。

(3)未実現損益消去は、購入側が負担するケース
商品を仕入れて販売することを業としている会社(つまり商社ですね。)で、商品を仕入れたのは、売却先を決めてからのはずなのだから期末に在庫を持つのは悪であり、早く取引先に引き渡すことをメッセージとしているため購入側が負担するとの考え方です。もちろん商社全体の話ではなく、ある特定の商社で採用されている考え方です。

上記のような未実現損益を購入側が負担するとする考え方は、管理会計や管理指標を具体的な業務のアクションに繋げるという意味では興味深い処理方法と思います。

3.実現しない未実現

最後に標題の「実現しない未実現」について書きたいと思います。
10年ほど前ある会社で、親会社から子会社に土地を売却しました。
取得原価も低かったため時価で子会社に売却し個別決算では「固定資産売却損益」を計上していたため、未実現損益の消去の処理として、当該、利益を取り消す処理、並びに繰延法に基づく税効果を認識しました。ところが当該子会社を親会社が吸収合併することになり単体決算上は当該、土地の価格は子会社の簿価で引き継がれました。(当時は持分プーリング法が認められていました)不思議な感じもするのですが個別決算では、土地は子会社の簿価、連結決算では、親会社自身が過去に計上した未実現損益が消去されることになります。親会社は、その土地をグループ外に売却する予定はないため税効果と伴に、いつまでも、永久仕訳として残っていくことになります。

もしかすると連結決算というのは、導入からの期間が長くなればなるほど様々な仕訳が溜まっていくのかもしれません。

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