2012.03.21

第143回 (A) 震災の傷跡から我々は何を学ぶのか?【経営・会計最前線】

株式会社ディーバ・ビジネス・イノベーション 代表取締役社長 川本 一郎

先日、東日本大震災が起きて一年が経ちました。TVなどでも昨年の悲劇の映像が繰り返し放映されていたので、改めてその凄惨さに息を呑んだ方も多いと思いますが、本当に未曾有の大災害だったと言わざるをえません。多くの犠牲者の方にお悔やみを申し上げたいと思います。
さて、この震災は日本の危機管理能力を問い質す出来事となりました。発生当時の海外マスコミの論調を見ると日本人個々の振る舞い、復旧対応の際の自衛隊の努力などが称賛されています。但し、残念ながらその後の政治不在・復興にあたっての戦略不在は明らかで立法・行政両機能の危機管理能力については残念ながら疑問符がつきました。

そもそも危機管理という日本語は、リスクマネジメントとクライシスマネジメントの二つを一本化して扱っていることが多いのですが、両者の概念は明確に違いがあって二つに分けて考える必要があります。

教科書的に言えば、リスクマネジメントは、危機事態の発生を予防するためのリスクの分析方法等、クライシスマネジメントは危機事態の発生後の対処方法を指します。
恐らく日本で一本化されて議論されてしまっている理由としては、災害を起こさないことを前提に立派すぎるハードを整備していることにあるかもしれません。一昨年、民主党政権の事業仕分けで話題になったスーパー堤防は二百~四百年に一度の洪水確率に対応していることで注目を集めました。

何百年に一度の対応でいいのだと認識されてしまうとほぼ災害が起きないことが前提になってしまい、いざ災害が起きた時に思考停止になってしまいます。

例えば、EUではドイツを中心に洪水対策を進めている最中ですが、ハザードマップは十年に一度の洪水、百年に一度、それ以上の極限的な事象と三つのレベルで作成し、それぞれに対策が立案されます。また米国では災害が発生することを前提とした減災計画を各州に立案させて、その出来の良さに応じて補助金の支給率が決まります。このようにある程度災害が起こることを前提にしたリスクマネジメントの仕組みが出来上がっています。

災害が起きた後のクライシスマネジメントについても、例えば米国では規模に応じて国の機関であるFEMA(連邦危機管理庁)か州レベルの機関(例えばカリフォルニアだとOES{州危機管理局})が一時的に全権を握って対応に当たれるような仕組みが存在します。それに比べ省庁の横断的な調整が不可欠な日本ではどうしても機動性ばかりか実効性にも差が出てしまいます。
つまり、災害や事故は起きて当たり前と認識することが大事です。もちろん起こさない努力は必要ですが、絶対起こさないようにするとコストが無尽蔵にかかります。対策の費用と起きた時のリスクを適切に評価し、起きた時の対策を万全に練っておくことが必要です。

行政では政治的に実現困難な概念であっても、企業経営では昨年の大震災後に必須の概念と認識されています。その証拠に多くの企業で事業継続計画(BCP~Business Continuity Plan)として導入が進みました。特に事業を外国へ展開している企業からすれば把握すべきリスクが飛躍的に高まっていますから世界規模での計画策定は急務となっています。

しかし、事業上のリスクをどの程度の発生確率のものと認識するかで計画の内容は大きく変わってきます。そもそも災害・戦争のような究極事象を対象にするのか、過去十年で二回発生しているインターネットバブルやリーマン危機なども含めるのか。後者だともはや狭義のBCPとは言えないかもしれませんが、そのようなシミュレーションは経営管理上しっかり行っておきたいものです。
一年前の震災が日本に遺した傷跡は大変大きかったのは事実です。でもその傷跡から何を日本人が学んだのか、学ぶのか?震災で亡くなられた方の供養のためにも残された日本人や日本企業ひいては日本社会が震災で学んだことを今後の成長の糧にすることが必要だと考えています。

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