2012.05.09

第146回 (B) プロの道具、ステノタイプ【ものづくりの視点】

DIVA CORPORATION OF AMERICA CEO 中村 研二

15年ほど前、米国に来たばかりの頃に通った語学学校の先生に、クローズド・キャプションなるものを教えてもらいました。クローズド・キャプションは、元々は聴覚障害を持つ方々向けの、テレビにリアルタイムで表示される字幕なのですが、聞き取りが苦手な語学学習者にも最適なもので、当時は大変重宝しました。今では日本でも字幕放送が一般化しましたが、皆様はあの字幕がどのように作られているかご存知でしょうか?

字幕をしばらく見ていると気がつくのですが、打ち間違いがありますし、生放送のニュースでも字幕がでてきますので、予め用意した原稿を流しているのでなく、リアルタイムでタイピングしていることが分かります。どうやってそんなに速くタイピングしているのだろうと不思議に思っていたのですが、先日その謎がようやく解けました。

その秘密は、ステノタイプという機械にあります。ステノグラフ(=速記)をするための特別なタイプライターで、米国のステノグラフ社がほぼ独占的に製造しています。私も実物を見たことはないのですが、法廷や国会の速記で、あるいはテレビ番組の字幕用にプロフェッショナルの速記者によって使われているそうです。
速記者試験に合格するためのタイピング速度は180~225wpm(単語毎分)だそうですが、カリフォルニア州の法廷速記者協会の最高記録ではなんと375wpmの記録が残されているそうです。達人は法廷の証言を録音したテープを早回しで再生しても正確に記録することができる様です。筆者も仕事柄毎日キーボードを使っており、キー入力には慣れているのですが、試しに計ってみたら63wpm程度でしたから、一人前の速記者になるためにその3倍、トップレベルでは6倍の速さで打たなければならないことになります。

それでは、どうしたらそんなに速く打てるようになるのでしょうか?ステノタイプの特徴はキー配列と入力方法にあります。普段我々が使っているQWERTYキーボードは英語版では101キー、日本語のJIS版では106キーが主流となりましたが、ステノタイプはたったの22キーしかありません。キーは縦長で、表面に刻印はなく、黒一色です。入力方法は、アルファベットを一文字ずつ押すのではなく、左手で初めの子音、右手で終わりの子音、親指で母音を表すキーを複数、同時に押して、単語やフレーズを一気に入力するのです。入力方法は複雑で、マスターするためには特別な訓練が必要だそうです。ステノタイプは特殊な機械なので、毎年数千台しか生産されず、そのため新品は1台40~50万円程度と割高で、30年落ちの中古品も流通しています。

PCが普及し、我々一般人は文章のタイピングはQWERTYキーボードで行うことが主流になりましたが、プロフェッショナルは、一般人とは全く異なるツールやアプローチを使って仕事を遂行しているわけです。また、その特殊性ゆえ、イノベーションの速度が遅く、古い機械が現役で使える状況も生み出しています。

この1年、財務・経営会計(CPM)ソフトウェアの市場調査を行なって参りましたが、筆者はCPM市場とステノグラフには類似点があるように感じます。財務諸表を中心に扱うCPMでは、複式簿記、多次元軸による分析、様々な階層での集計といった機能が求められており、プロフェッショナルのニーズに特化した製品が独自の市場を確立してきました。しかし、それは同時に、その独自性ゆえ主流のIT技術をタイムリーに取り込めずに、旧来の技術を使い続けるという側面も持っているようにも思えます。プロフェッショナルに特化した使いやすさを損ねずに新しい技術で革新をもたらすために、DIVA AMERICAは今後も調査研究を行なってまいります。

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