2012.10.17

第157回 (B) 経理の”state of the art”【経営・会計最前線】

管理会計事業本部 管理会計事業部 ディレクター 永島 志津夫

“state of the art”という言葉をご存知でしょうか?
Oxford Dictionaryを引くとthe most recent stage in the development of a product, incorporating the newest ideas and features とあります。日本語としては”最先端の”とか”最新鋭の”と言った表現があてられるそうです。何か誇らしげな雰囲気ですね。

私は大学院生の頃、認知心理学、神経生理学系の論文でこの言葉に出会い、辞書も引かずに自分の中で”未だ確立されていない、研究段階の”という意味合いで勝手に解釈していました。訳としては間違っていますが、学術論文の文脈では誇らしげな物言いはされていなかったように記憶しています。その点が気になり、同じくOxford Dictionaryでartを調べました。

幾つかの説明があるのですが、この場合のartはa skill at doing a specified thing, typically one acquired through practiceになるようです。(念のため英語を日常的に使う同僚に確認しました)
経験により獲得される技能の段階、というのが”state of the art”の直訳になりますね。

それが転じて、(まねのできない)”最先端の”、という意味合いで使われるようになったのではないでしょうか。

自然科学、特に実験系の研究結果の発表においては、その再現性も合わせて問題とされます。

0か1、白か黒というきれいな実験結果というのはまずなく、統計的傾向として偏りがないことはないとか、ノイズばかりとはいえない等といったものもあります(私が読んでいた論文はこういったものが多かったです)。
そんな事情もあり、研究結果の重要性もさることながら、それが再現可能であり、科学的知見としての確からしさ、普遍性を備えることが自然科学の世界では要求されます。画期的であること、独創的であることは歓迎、評価されますが、誰にもまねができないことは歓迎されません。単なる誤報の可能性も否定できず、それは発表した研究者が最も恐れていることです。正しい結果であったとしても追試の難しい研究結果は評価されにくかった例も実際ありました。
ですから研究の世界では、少なくとも直訳としての”state of the art”ではまだ弱く、私が当時読んだ論文の中でも決して誇らしげな調子ではなかったのではないかと思います。「自分達は工夫を重ねて得られた最新の実験結果を発表するが、それはある仮説の可能性を示唆するにとどまり、決定的なことをいうものではない。」くらいの論調だったと思いますが、私の単なる読み間違いの可能性も否定しません。

ところで科学者というと一般的には体系化された知識を豊富に持ち、論理的思考に優れ、それこそOxfordの説明通りの”state of the art”なイメージがあるかと思うのですが、本当の最前線というのはなかなかどうして、曖昧模糊として、何が正しいのかはっきりとはしない、普通の人であれば何とも居心地の悪い世界でないかと思います。
そこにあるのは現象から示唆される、こうではないかという予想であったり、ひとまずの作業仮説ばかりで、普遍性をもつ法則と呼ばれる段階にまで到達できるのはごく一部のもので、そのような幸運をつかむことができる科学者もまたごく一部でしょう。
大方の科学者は未開の領域の探索で一生を終えることになります。そんな環境において、知性を発揮、高いレベルで維持していけることこそが本当の頭の良さ、強さなのではないかと思います。

前置きが長くなってしまいましたが本題です。
これほど極端ではないにしても、皆様の仕事に”state of the art”な要素はあるでしょうか?当メルマガの読者の7割近くが経理部門とのことで、タイトルは『経理の”state of the art”』とさせていただきました。
経理というと型にはまった仕事というイメージがありますが、いかがでしょうか?
営業や生産、開発部門に比べれば経理には会計という職務上の拠り所があり、ほとんどは確立された手法で業務は回ります。情報システム(計算機)が会計業務から浸透、普及した理由には数字を大量に扱うというニーズに加え、業務の定型性も無視できない要因です。とすれば経理の”state of the art”はないのでしょうか?
更に問います。皆様の会社の管理会計に”state of the art”な要素はあるでしょうか?
管理会計となると、企業の置かれている状況、経営の考え方、その時々の課題に応じて考えないといけないことが多いと思います。相当の難物であったりもします。直訳としての”state of the art”なのではないでしょうか。

1つ引用します。
“二十五年間、会社は作業をする私の手に対して給料を払いつづけてきた。そのあいだ会社は私の頭も使えたはずだ―それもタダで”
(「ジャック・ウェルチ わが経営」より、経営改革の現場展開活動の最中、家電事業部門のある中年社員の発した言葉)

手をルーチン作業(工夫、試行錯誤を要しないルーチン作業)、頭を課題解決の前向きな頭脳活動(これも一種のartだと思うのですが)に置き換えることもできるかと思います。

次は日本の例で、私が直接お伺いしたものです。
“同じような市場を相手として、競合他社と大差ない人材、商材を用いたとしても、最終的に勝敗を分けるのは、人材・組織である。経営としては、社員に対し、有用なことに徹底的に頭を使ってもらい、かつ継続しなければならない。”
-そしてこう続くのです。
“だから、そのための管理会計を作りたい。”

お名前は控えさせていただきますが、業界ではカリスマと呼ばれる経営者の言葉です。突飛な結びつけかもしれませんが、カリスマ経営者の頭の中では経営、人材、会計は一体であり垣根は存在しません。経営もartなのでしょう。
その点でこの言葉には2つの”state of the artがあるかと思います。
・経営の”state of the art”を追求し、
・社員に”state of the art”を求める。

最後にもう一度。皆様の仕事において”state of the art”とは?

参考文献
ジャック・ウェルチ ジョン・A・バーン(著)宮本喜一(翻訳)
「ジャック・ウェルチ わが経営」日本経済新聞社

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