2013.04.17

第170回 (A) りんごに食べられた怪獣【ものづくりの視点】

全社支援 特別技術顧問 松原 聡

みなさんは、1993年に発売された、電子手帳「ザウルス」を覚えているでしょうか?発売当初の正式な商品名は「液晶ペンコム」であり「ザウルス」は愛称にすぎませんでした。(http://www.sharp.co.jp/corporate/info/history/only_one/jouhou_t/jouhou_t_w11.html) 
ハードキーはなく、すべてペンによって画面に直接入力するか、表示領域外に配置されたショートカットキーを押すことで操作を行えるようになっていました。価格も低価格化を実現したために、ビジネスマンを中心にそのコンセプトが受け入れられるようになりました。

*1参照

シャープは自社の持つ、液晶の販路の一つとして、この「ザウルス」を開発し世の中に送り出しました。その後ザウルスは2000年頃に、電子書籍やゲーム、音楽、株取引ができる新機能までが加わり、独自の進化をとげていきます。 

このような話を聞くと、みなさんは現在のスマートフォン(スマホ)と良く似ているなと、思われるでしょう。進化系ザウルスと現在のスマホの違いは、携帯電話機能とカメラの有無だけだったのです。やがてシャープの技術陣は、ザウルスの技術を用いて、「カメラ付き携帯」の開発を行い、日本で花開いた「写メール」文化を築きました。
液晶画面+ (スタイラスによる) タッチパネル+カメラ機能とくれば、後に、故スティーブ・ジョブズ氏がアップルで提案した「iPhone(アイフォーン)」(2007年に発売)と良く似ています。このような要素技術があったにもかかわらず、iPhone登場翌年の2008年、シャープはザウルスの生産を中止しました。累計販売数は約300万台、それに対してアップルのiPhoneは、1年間で1億台を売ったとされています。このイノベーションは、世界の産業地図を大きく変えてしまいました。

その後に色々な人々が分析した結果を見ると、イノベーションを起こすのに必要な「力」は、新商品のアイデアや技術力ではなく、「企業の実行力」と「商品発売のタイミング」にあると言われています。もちろん、異論をとなえる人もいることは理解しています。しかし「投入すべき時期を見失わず、そこに人とカネを集中投下してやり抜く。」また「発売までに戦略はすべて練り上げられている。」(*1) と故スティーブ・ジョブズ氏が行った行動が、イノベーションを起こしたものと考えます。 1990年代に、アップルは創業者のジョブズ氏の復帰によって再生していきます。PC「iMac」や、その後に売り出した携帯音楽プレーヤー「iPod」がどれだけのヒット商品であったかは、みなさんがご存じでしょう。なにひとつ新しい技術があったわけでなく、当時の世の中に受け入れられる基盤(インターネットに接続し、サービスやソフトを供給する業者が参入できる仕掛け)が出来あがった時を見計らって商品を投入したのです。また、アップルは「iPod」の販売数が、1,000万台を超えた時に、米国内に残されていた自社工場を閉鎖し、日本(シャープ、その他)や諸外国から部品を調達して、新興国(中国やアジア諸国)で完成品に組み立てる国際的な生産分業体制に移行しました。その後に「iPhone」の販売台数は万の桁から億の桁に伸びていきました。 

シャープのブランド名:亀山モデルの名前で有名な、亀山工場(三重県亀山市)もいまや第一工場はアップルに生産設備の資金を負担してもらい(http://toyokeizai.net/articles/-/13240?page=2)、全量アップル向けの液晶(Retina Display)を生産しています。第二工場もかなりの部分をアップル向けに生産していると言われています。いつしかシャープは強大化した「アップル」に組み込まれてしまい自身が開発・販売した、怪獣(ザウルス)をも捨てざるを得ない状況になっています。

しかし、皮肉な事にそのアップルは、期待されたアップルの新モデル「iPhone5」の売れ行きが伸び悩み、その影響がシャープの不振の一つとなっています。iPhone5不振の一因は、米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」との争いにあると言われています。自社だけで囲い込むアップルに対し、多用なメーカーが開発できるオープンなOSのグーグル。この構図は既に1990年代にPCのOS戦争におけるマイクロソフトとの争いを思い出させます。故スティーブ・ジョブズ氏の自伝の中の一説が、頭をよぎります。

「全部自分でやる会社にしたから他の人との協力が不得意になってしまった。アップルのDNAに協力という要素がもう少しあったら」

独自の美学にこだわるアップルに対して、シャープはアップルの発注減による損失を補填するためにサムソンからの出資を受け入れ、代わりに液晶パネルを供給する提携を発表しました。シャープはアップルに対する依存度を下げる決断をしたのです。

このようにイノベーションは、決してアイデアや技術力でもたらされるものではなく、必要な時期に必要な戦略に基づき、集中投下的にリソースを投入してこそもたらされます。ディーバグループがミッションとしている「経営情報の大衆化」の一要素は、異なる企業群を共通言語である財務情報をもとに、情報公開を前提とする環境を整えることにあります。
お客様が「あっ!」と驚くようなものよりも、「これは使えるね!」と言われるもの作りをめざして、ディーバグループは「次の何か」を提供し続けていきます。

*1 「僕がアップルで学んだこと」松井博(アスキー新書) 

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