2013.11.13

第185回 (A) 「サッカー選手の移籍金と会計処理」【ケース・スタディー】

株式会社アバント グループ管理第1部 マネージャー 原口 浩一郎

今年も欧州サッカーの移籍市場では大物選手の移籍が相次ぎましたが、中でも世界に最も衝撃を与えたのはトッテナムからレアル・マドリードに移籍したガレス・ベイルでしょう。
メディアの報道によるとレアル・マドリードがベイルに費やした移籍金はおよそ120億円~130億円(9100万ユーロ~1億ユーロ)と言われており、2009年にクリスティアーノ・ロナウドがマンチェスターユナイテッドからレアル・マドリードに移籍した際の約122億円(9350万ユーロ)という史上最高額を超えたのか?と話題になりました。
スペインのスポーツ紙「マルカ」によるとレアル・マドリードの昨季総収入は5億1400万ユーロ、今期予算は5億1700万ユーロだそうです。日本円にしておよそ700億円の売上規模であるレアル・マドリードにとって130億円という移籍金は非常に大きな投資であるといえます。
経理・決算業務に携わる者として気になるのは、このような巨額の投資(移籍金)をどのように会計処理しているのか、という点です。今年1月25日の日経新聞にサッカー元日本代表の宮本恒靖さんがコラム「サッカー選手の価値と財務諸表」の中でも書かれていましたが欧州のサッカークラブの財務諸表では移籍金は資産計上され、契約年数によって償却されているようです。
http://www.nikkei.com/article/DGXZZO50942910U3A120C1000000/

移籍金の会計処理
参考文献(※1)等によると、欧州では、移籍金は選手自身の売買ではなく、「選手登録権」の売買と考えられているようです。選手登録権の会計処理方法は、選手登録権の獲得の際に支出した金額(移籍金の額)を取得原価で無形固定資産として計上し、一定期間(選手との契約期間)に渡って、定額法で償却されます。
また、選手登録権は帳簿価額が使用または売却を通じて回収可能な額を超過している場合には減損処理されます。

移籍金の資産性
欧州では移籍金を「選手登録権=選手を自身のクラブに登録する権利」として捉えることで将来キャッシュフローが期待できる権利と認識し、無形固定資産として計上しているようです。選手登録権は無形固定資産における下記の要件を満たしていると考えられます。

①支配
プロサッカー選手とプロサッカークラブとの間の契約はいずれか一方による契約破棄は困難なものであり、少なくとも契約期間内には選手側には自主的な「退職」の選択肢はない。このように契約期間内にクラブに便益をもたらす主体としての選手とクラブは密接に結びついており、経済上の所有ないし管理関係にあるとみなすことができる。

②将来の経済的便益
プロサッカー選手は試合で活躍することにより所属するクラブに対して入場料収入やテレビ放映権料、スポンサー契約等の便益をもたらすことが可能であるため、将来的な収益獲得能力を十分に兼ね備えているといえる。

③識別可能性
プロサッカー選手の場合、実際に現存する移籍市場を通じて選手登録権が売買されており、貨幣単位での数量化による評価が可能である。

契約金は費用処理
では、移籍金(選手登録権)以外の人的支出に対する会計処理はどうなのかというと、例えば契約金の支出額は費用として処理されています。移籍金(選手登録権)がクラブ間の売買取引であり客観的な企業間取引に基づく交換価値をもつものだと言えるのに対し、契約金はクラブと選手との間の取引であり、クラブにとっては契約にあたって支出済みの売却不可能なものであるため資産にはなりえず、費用として計上しなければならないと考えられます。

アバントグループの人的投資は?
ここでアバントグループの人的資源に対する支出について考えてみますと、大きくは二つ、人財採用に際して紹介会社へ支払う紹介料と、教育・研修に係る外部支払費用があります。人財紹介料については前述の契約料と同様、紹介を受けた社員が入社した時点でその効果が失われ、将来における経済的便益がないと考えられます。
一方で教育・研修費用については、投資の時点では研修を受けた社員からその対価を享受しておらず、将来的な収益獲得を得る可能性がありますが「権利そのものとしての売買価値を持たない」ことや「投資額がその現在価値に等しいとは限らない」といった問題もあり、資産性は認められないと考えられます。
弊社グループのようなITサービス事業の会社は人財こそが最大の経営資源であり、人財に対する投資は積極的に行っているのですが、人財採用や教育・研修といった投資は発生時の費用処理となるため、発生時期の分散も考慮せざるを得ません。しかし費用を気にしすぎると適切な投資タイミングを逸してしまう、というジレンマもあります。

「目に見えない」無形の資源の会計的価値
サービス産業において企業としての競争力や価値を生み出す源泉は人財やブランドのような「目に見えない」無形の資源であることは明らかですが、会計上は資産として認識されるにいたっておりません。今後、このような「目に見えざる」資源の会計的価値をどのように測定し、無形資産として計上できるか、注目していきたいところです。
(ただし決算業務を担当する身としては、決算日の価値評価項目がまた増えてしまう、、、という思いも正直ありますが。。。)

※1 参考文献
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/5835

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