2020.05.27

第354回 (B) 「一日だけ長くいきたい」夢からはじまる私的教育方針の振り返り

グローバル経営ソリューション事業部 コンサルティング2部 部長 平沼 智康

「彼よりも一日だけ長くいきたい」

あるとき唐突に「将来の夢は何ですか?」と聞かれたとき、私の脳内に湧いてきたのが冒頭の言葉でした。
自閉症を抱えるが脚力が長けているためマラソン選手を目指す青年とその母を描いた映画「マラソン」(ドラマ化も!)にて、コーチから「お母さんの夢は何?」と聞かれた際に答えた母の台詞が同様であり、また、障碍を抱えるお子さんとの生活をつづったセーラーズの創業者・三浦静加さんの書籍のタイトルも同様でした。

自閉症を抱える彼は私より二歳年下。同じ男女から生まれており、寿命も同等程度と考えれば私の方が少しだけ先に逝く程度かなと思いたいところが、下記を総合して勘案すると私の長命は望むべくもないようです。
・健康診断は常に彼の方が良好
・学校・会社の皆勤は当方ほぼ未達、彼はほぼ達成
・星占い、手相占い、タロット占い、四柱推命、紫微斗数、ついでに動物占い、いずれでも長命は彼で、数年程度の差でない結果
・先人曰く「佳人薄命」「憎まれっ子世に憚る」

先年保護者が私のみとなった折、逡巡した結果、昨秋より彼は平日限定でグループホーム(以下GH)で生活することになりました。
当時の私は出張を伴う長期のプロジェクトに関与していたため、一線から身を引き毎晩家に帰れる仕事に切り替えることも考えましたが、ググってみると、「GHはすぐには見つからず数年かかる場合有。不慮の事態になってから探し始めても到底見つからない。保護者が元気なうちに探しておくと吉」との趣旨の記載を数件目にし、最終的には上記の決断としました。

「残るは、万が一に備えて生命保険、銀行口座等の手続きをわかりやすくノートに記しておき、彼に託す準備を始めよう」と考えていた昨年末の大晦日イブ、年末年始の買い出しのため彼と二人で歩いていると、彼は突如見知らぬ男性に挨拶し始めました。聞くと彼が参加する市の青年団体で一緒の方とのことでした。
さらに歩を進めて駅前まで赴くと、見知らぬ親子連れがこちらに向かって手を振ってきました。それに答える彼に後で聞くと、加入するスポーツチームで知り合った方々とのことでした。

私の住まいは成人後に越してきた処で、私にとってはほぼ寝食のためだけの場ですが、後年に越してきた彼はここを自身の生活の場とし、礎を築き続けていたようです。
先述では省略したGH入居に至るまでの道程は、彼が自分自身で候補を調べ、場合によっては直接GHに電話して情報収集、手続きいただく市役所にその結果の提供と見学日調整の依頼を実施するというのを繰り返していました。
参加する団体やグループ、スペシャルオリンピックスも自分で探して加入し余暇を楽しみ、それらがない日は馴染みのカフェを巡って地域の方々と親交を深めており、私をとうに凌駕する市内でのコネクションを築いてきていることに改めて気づいた年末でした。

幼少時、一生しゃべれないと複数の検査機関で言われた彼が、周囲には「こんな子はうちの家系にはいない」「脳が無い」(書きながら思い出して身震い中#)と言われた彼が、ここまで頼もしい成人に育っていることに万感の思いがこみ上げてきます。。

彼自身の弛まぬ努力の積み重ねが第一にありますが、母と私が長年かけての育て方も寄与しているであろうと思い、改めて彼への教育を振り返ってみると、割と組織の人材育成にも共通する考え方かと思いますし、また私自身は組織運営で実践してきていたと思っておる事項ですので、僭越ながら下記にて開陳させていただきます。

●自分で好き・嫌いを考え、好きといって始めたことはちゃんとやりきる
「好きだと思うものはどんどんやってみて。でも『好き』『やりたい』といって始めたことについてはちゃんと責任持ってやってね。」と。
自分の気持ちを言葉足らずながらも一生懸命話そうとしますし、「(自分でやると決めたことなので嫌なこともあるけれど)ちゃんと行くよ!」と言って飛び立つ彼はこれらの思いに答えてくれていると感じています。

●無理なチャレンジも果敢に調整する
きょうだいに障害者がいる場合、いじめなど憂慮して学校を分けることもままありますが、我々は小・中と一緒の道を選びました。私の同級生らと遊びに行くときも、また家業の手伝いのときも彼を連れ回しました。そのおかげもあってか、自閉症の男子では稀な誰とでもしゃべる子に育ったと思いますし、物怖じしない子になりました。
そんな彼をみて調子に乗った(失礼!)教員らは大勢の前で発表させようと言い出しましたが、辞退せず挑戦させました。私自身の授業の合間に市原悦子氏さながら彼の教室をのぞき見し内容を暗記して持ち帰り、家で特訓して挑ませてきました。
自分でやるときの何十倍もドキドキしますし、自分でやるときには一切しない胃痛もしますが、彼の飛躍的な成長に寄与したと思います。

もう少しありますが文字数の制約が迫ってまいりましたので、今回はここまでに致しとうございます。

ある経営学者が、「管理者・経営者は最後に後継者の人材育成をやり、管理者・経営者人生を幕引きする」と言っていた記憶があります。それなりに彼を育ててきた自負がでてきた私は、あと少しの遺訓を残したら、
「彼より先に、いますぐ目を閉じることになっても安心して眠れること」
を夢に変えられたらと思います。


追伸
「一日だけ長くいきたい」
これは、一日だけ長く生きて保護者の責務を完遂したいという思いではなく、彼のいない世界は一日だけで十分という気持ちが勝るのかな、とコラムを認めながら、また今朝GHへと発っていった彼の背中を見ながら、思い馳せております。

MAIL MAGAZINE

メールマガジン

NEWS

ニュース

SEMINAR / EVENT

セミナー / イベント

セミナー/イベント一覧を見る

お問い合わせ