2021.03.03

「お天道様は見ている論」

セキュリティガバナンス室 中山 貴禎

最近、娘のわがままに少し頭を悩ませています。もう小学校も最終学年を迎えるせいか知恵が回るようになって、最近は「バレなきゃ大丈夫」とズルをする事も目に付くようになってきました。
まだ幼い頃、私は大変なおばあちゃんっ子で、当時それはそれは甘えん坊だったそうです。正直もうあまり覚えていないのですが、その祖母によく言われていた言葉、それだけは今でもはっきり覚えています。

私が祖母によく言われていた言葉、それは
「偉い人になんて、ならなくていい。そんな必要ない。だけど、お天道様に顔向けできない事は、絶対にやっちゃいかんよ」
という言葉でした。
正直なところ「今日は雨だからきっと見てない」とか自分に言い訳をして逃げた記憶も、一度や二度では収まらない程度にはあったりします。でも、この言葉そのものは、今でも心の奥にしっかりと刺さっています。

私は今、セキュリティの世界のすみっこで生きています。世の中では、様々なインシデントが毎日のように発生していますが、その度に叫ばれがちな「大きな声」は、やれ犯人捜しだの、やれ監視体制の強化だのといった、ともすれば息苦しい方向の「声」ばかりが目立つように感じています。もちろんそれも必要な、大切な「声」の一つではあります。ですが、本当にそればかりに偏って進んでいったならば、本当に最後は明るく平和な正しい未来、みんながお天道様に堂々と顔向けできる未来へと繋がっているだろうか、私には違和感が拭えません。

セキュリティの現場に住んでいると、端的に言えば

◆組織が締め付ける
◆従業員がそれに不満を持ち抜け道を探す
◆組織は更にそれを塞ぐ
◆従業員は更に不満を持ち別のルートを探る

といった「いたちごっこ」をよく見かけます。たまごが先かニワトリが先か、という側面もありますが、組織内に、テクノロジーに詳しい集団、研究者、開発者等がいらっしゃる組織では特に目立ちます。また、不満が怨恨に発展して組織に害をなす、たとえば自身がアクセス可能な秘密情報を故意に外部に持ち出し、組織に損害を与える、こういう例もまた、よく見かけます。権限を持った内部の人間の犯行や、断固たる敵意を持った標的型攻撃は防ぎようがない、とはよく言われますが、そうした場面に出くわすにつけ、そこにはもはや色々な意味で不幸しかない、と暗澹とした気持ちに陥ります。

現代では、ズルは悪い事じゃない、賢さの証明だ、とでも言わんばかりの「声」が巷に溢れていると感じますが、そういう「声」の元では、汝の隣人は同じ方向を向く仲間ではない、対人のベクトルが横ではなく上下に向いているように感じます。使える/使えないで判断する、使えなければ/使えなくなれば排除する。「使える人間だけを集めて研ぎ澄ます」。組織論でもこうした論調は珍しくありません。それは、一定の期間に限って見れば、成功する可能性は高いのかもしれません。でもそのベクトルのままではいずれ頭打ち、行きつく先は孤独。そんな気が、私にはします。

「セキュリティに銀の弾丸はない」という言葉は、インシデントの背景や発生事象は千差万別であり万能薬のような対策など存在しない、という事実をたとえて使われる言葉ですが、そこには物理的な壁や犯人の拘束、規則等の強化等による「抑止」だけではダメだ、という意味も含まれていると私は考えています。騙されない対策一辺倒に偏るばかりではなく、皆がそれぞれ自身を律する事、そして隣人を騙すのではなく「尊重する」方向に目を向ける事も同様に肝要だと感じています。そもそも空間内に鬱屈した空気を溜めない、犯行を起こそうと思わない土壌作りにも、同様にウェイトをかけてあげること。それも立派な、重要な対策になるのではないでしょうか。

まず自分で自分を律すること、そして隣の人と自分を同じ高さに置いて、裏表なく、その人の考え方や望みにも耳を傾け尊重すること。そんな人生論、そんな「お天道様は見ている論」は、もう現在の日本では古臭い考え方なのかもしれません。ですが私は、この世界を、そして何より大好きだった祖母を信じているので、自身の生き方はもちろん、これからも娘には「それは、お天道様に顔向けできる事かな?」と言い続けようと思っています。大声で叱るのではなく、私の個人的な考え方を一方的に押し付けたりせず、私のお天道様でもある彼女とまっすぐに向き合って、話し合おうと思っています。

まぁそれも、生理的にムリ、とか言われるまでの、ほんの僅かな時間しか残っていないでしょうけどね。

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