2008.08.22

第56回 最近の「のれん」をめぐる動き

公認会計士 岩佐 泰次

最近、新聞紙上で最も多く扱われている会計上の論点は「のれん」ではないかと思います。企業のM&Aが盛んで、規模的にも拡大傾向という背景はあるものの、それ以上に採用する会計処理(会計戦略)次第では、企業の「意思」と乖離し、期間利益にも大きく影響を与える点からフォーカスがあたっているように感じています。また企業の「意思」との乖離や期間利益への影響という点はそのまま投資家への説明(アカウンタビリティ)の難しさを意味し、そのあたりも背景にあるのではと思います。

そこで今回は「のれん」をめぐる最近の動きを、会計処理の側面から、過去、現在、将来に分けて概説し、その上で考察を加えてみたいと思います。

(過去)
会計処理ルールにかなりの幅があり、現在に比べると経営者による裁量の幅があった時期といえます。ここでの経営者の裁量とは、償却負担をいかに抑えるかということに主眼がおかれていたように思います。具体的には以下のような会計処理が多く見られました。

1.買う側買われる側を区分しない持分プーリング法により、のれんの認識自体を回避
2.一括償却かつ特別損失処理で、営業利益(経常利益)への影響を回避(IT業界など)
3.在外子会社で発生したのれんについては現地会計基準に従い償却不要のまま受入(日本の連結財務諸表上、期間利益には影響なし)
4.負ののれんは正ののれんとの対称性という理由で規則償却
(現在)
現在は、会計コンバージェンスへの対応と日本固有の会計理念が並存した状態です。並存した状態ですので、首尾一貫しない処理も多く、会計処理的には過渡期といえます。具体的には以下のような会計処理があげられます。

1.持分プーリング法の利用はかなり限定的(時価ベースでのれんを認識)
2.効果の及ぶ期間(実際には企業が20年以内で任意に選択)で規則償却(一括償却かつ特別損失処理は禁止)
3.在外子会社で発生したのれんについて、会計処理が日本基準と異なる(償却不要)場合には日本基準に修正(日本の連結財務諸表上、償却負担が発生し期間利益に影響)
4.負ののれんも正ののれんとの対称性という理由で規則償却
(将来)
純粋な形で会計コンバージェンスが図られた状態が近い将来の姿です。残念ながら日本固有の会計理念は埋没してしまっているといえます。具体的には以下のような会計処理になる見込みです。

1.持分プーリング法は完全に廃止(時価ベースでのれんを認識)
2.規則償却は不要(減損のみ)
3.日本基準自体が償却不要となるため、在外子会社で発生したのれんについて現地会計基準と日本基準との相違自体が解消
4.仮に負ののれんも発生した場合は一時利益として処理(規則償却なし)
以上、過去、現在、将来とみてきましたが、その変遷において以下のような特徴を感じています。

まず償却ルールに対する日本のスタンスです。国際会計基準や米国基準でのれんを償却しないのは、のれんの価値が買収直後から減価することはないという理由からです。一方日本基準ではそれを客観的に確認することは困難であり保守的思考から規則償却を義務付けています。この客観性に対するスタンスや保守的思考は日本基準の1つの特徴ではないかと思います。時価会計しかりです。このような特徴は日本の経営者や経理マンの思考に通じる面もあるように感じています。

次いで償却ルールの裏にある減損会計の存在です。減損会計があるが故に、規則償却は廃止できるわけで、減損会計なしにこのような変更はありえません。同じ背景で、企業結合時の仕掛研究開発費(IPR&D)の話もあります。現在の費用処理から資産計上とし、代わりに資産性がなくなれば減損会計で対応というものです。これら、のれんの償却不要や仕掛研究開発費の資産計上は、一時的には多額の費用負担を軽減できる点でメリットは大きいですが、将来業績悪化時の減損負担は、今までとは比べ物にならないレベルになると思われます。最悪の場合、減損倒産さえ招きかねないインパクトがあるように思います。それに比べこれまでの保守的な会計処理は将来の減損負担の軽減という大きなメリットがあったのです。このような点からはM&A実施時点でのアカウンタビリティだけでなく、M&Aがその後どれだけ貢献しているのかというM&A実施以降のアカウンタビリティがより一層重要になってくるのかもしれません。

最後にキャッシュフローとの絡みも重要ではないかと思います。上記のような会計処理の変遷がどうあれ、企業内部のキャッシュフローの大小は何ら影響を受けないという点です。これだけいろいろと会計処理が変わると経営者や投資家もPLだけみていたのでは限界があるのかもしれません。株式市場では依然PL信仰が根強く、期間利益の大小が強く意識されていますが、’所詮’期間利益なのかもしれません(期間利益はもちろん重要ですが)。アナリストの分析では期間利益にのれんの償却費を差し戻した修正期間利益を見ていることもあるようです。また企業価値がキャッシュ創出力だとすれば、会計処理(期間利益)に振り回されないキャッシュフローベースでの評価に大きな意義があるのかもしれません。

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