2009.02.17

第68回 金融庁のIFRS受入(方向性)の表明について

公認会計士 岩佐 泰次

先日、企業会計審議会(金融庁の諮問機関)から「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)(案)」が発表されたことに伴い、日本市場でもIFRS受入が事実上決定した。今回は、中間報告の中でポイントとなる点として以下の4点を確認しておきたいと思う。

(1)2010年3月期から任意適用を認める方向
つまり来期から任意適用が可能になる方向である。中間報告自体が案であり、案が固まり最終的に金融庁として正式発表するのは4月以降になることから、正式に決まったタイミングですでに対象期間は始まっているという状況になる。現時点で作成している、あるいはかなり戦略的に準備を進めてきた企業のみがこの任意適用を活用することになると思われる。

(2)任意適用は上場会社の内、一定の条件を満たす会社に限定
ただ(1)は全ての上場会社が対象かというとそうではなく、上場会社の内、一定の条件を満たす会社に限定されることになる見込みである。中間報告を読む限り以下の3つに分類できると思われる。
ⅰ)EU域内又は米国で上場ないし公募による資金調達をしていること等によりIFRSで開示する企業
ⅱ)国際的に事業展開し、国際的な投資家等にも広く認知されている企業
ⅲ)ⅰ)ⅱ)以外でもIFRSベースの財務諸表作成・開示の意欲と能力がある企業
ⅰ)は客観的な基準であるが、ⅱ)ⅲ)については現時点ではこれ以上の事実は決まっていないようである。今後国際的な状況を踏まえて決定していくとのことであるが、実務的には自社が対象となるのかどうかは早急に把握したいところではある。

なおこのように一定の条件を設けるのは、任意適用とすることは日本基準とIFRSとの有利な方を選べるということになる点に対する考慮である。ただ個人的には戦略的に活用するメリット(自由主義)より利益操作によるデメリット(規制主義)を優先したともいえ、多少残念な思いもある。上場企業という線引きだけとし、活用したい会社には門戸を閉ざさない形の方が今回のIFRS受入の根本の想いと整合するのではないか、とも感じている。またコンバージェンスが順調に進むことを前提にした場合もその方が整合するように感じている。

(3)強制適用はひとつの目途として2012年を判断時期とすることが考えられる
まず注意しないといけないのは、2012年はあくまで強制適用するかどうかの’判断をする時期’のひとつの目途であり、適用時期は当然それ以降になる点である。報道等では2012年に強制適用か、というような表現もあり留意したい。

次に強制適用の方法であるが、米国では規模別に分類した上で順次適用することを想定しているが、日本では上場企業一斉に適用(移行)する可能性が高いようである。

最後に具体的な強制適用開始時期であるが、IFRSへの移行を判断した時から(2012年がひとつの目途)、必要かつ十分な準備期間(少なくとも3年)を確保するとあることから、素直に考えれば2015年あたりが強制適用のタイミングとなる。なお米国が2014年~2016年での強制適用の方向で進めていることなどを踏まえると、ほぼ同じタイミングとなる。逆に言えばSOX法適用時のように米国に学ぶことはできないとも言える。

(4)適用方法はいわゆる「連結先行」の考え方
上記の任意適用も強制適用も連結財務諸表のみを対象とする方向となっている。いわゆる「連結先行」の考え方を採用している。会社法や税法や現実の商取引実務等との調整を考えると妥当な結論であると考える。実務的にはこれまでの在外子会社の日本基準への調整作業がIFRSへの調整作業に置き換わると考えれば大きな違和感はないと考えることもできる。ただ実務負担の大きさや従来のような親会社決算担当者だけの作業と考えるのかどうかについてはマネジメント視点を踏まえ慎重に判断する必要がある。
(第61回「IFRS『連結先行』での会計基準調整について」も参考にして頂きたい)

なおこの「連結先行」の考え方は、IFRSが強制適用になるまでのコンバージェンス作業期間中においても採用する旨のコメントがある点にも留意が必要である。

また「連結先行」という考え方は単に’IFRS受入の実務上の工夫’というだけでなく、日本における個別財務諸表と連結財務諸表との関係について一石を投じているとも言える。具体的には投資情報として個別財務諸表は本当に必要なのか、トライアングル体制(企業会計・税務会計・会社法会計の3つの関係)や確定決算主義はこのままでよいのか、などという論点である。

最後に今回の中間報告に対する全般的な感想について少し触れてみたい。
まずはIFRS受入を事実上表明した点は大いに評価できるものだと思う。SOX法の受入のように是非の議論がほとんどない点も今回の特徴ではないかと思う。ただ内容については全般通して、IFRSを積極的に活用したいのか、仕方なく受入れるのかどうか、という日本(金融庁)のスタンスがよく分からない。もちろん現状のIFRSの内容やIASB等のガバナンス体制など課題も多いのだとは思うが、受入を表明するのであれば、最初でも最後でもいいのでそういうメッセージ性の強い内容があって、その上で個別論点のコメントが欲しかったと個人的には感じている。

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