2009.04.14

第72回 (A) 新たな日本的経営の創造に向けて 【経営・会計最前線】

株式会社ディーバ 代表取締役社長 森川 徹治

(一世代を要した世界恐慌からの回復)
今から数年前の話となりますが、あるセミナーにて1929年の世界恐慌後株価が同水準まで回復するまでに一世代(25年)かかったという話を聞いたことがあります。実体経済が成長していても世界恐慌を直接経験した世代は株式への不信感をぬぐうことができず、株式投資の中心を担う人々が投資の怖さを知らない世代へ移るまで一世代を要したという話です。一世代を約30年、人間が社会人として現役である時間を一つの世代と考え、強烈な体験に基づく個人の価値観はなかなか変わらないというものでした。

(会計のプロが恐れるIFRS導入の意味)
話は変わりますが、IFRS導入について、会計のプロの方々が異口同音におっしゃるのは、「これまでの会計とは根本の理念が異なる。一から勉強しなおさなければならない。」
ということです。やっかいなのは「理念」が異なるという点であり、変更点を学び頭で理解するだけでは不十分で、これまで慣れ親しんでいた会計に対する肌感覚を作り直す必要があるそうです。知識とは異なり、いったん身についた肌感覚を変えるのは大変な努力が必要です。このような努力にかかるコストをスイッチングコストと呼びますが、はじめから新しい基準を学ぶことのできる人にはスイッチングコストがかかりません。会計のプロの方のお話の中でも「IFRS導入はこれから会計のプロとなる人々にとっては特に問題にならないが、すでに肌感覚を持っている自分たちにとって大変な問題となるだろう」とのお話が印象的でした。

(社会的環境変化と世代交代)
世界恐慌は、戦争と同様に多くの人々に強烈に影響を与えた社会現象です。強烈な経験は人間の価値観形成に大きな影響を及ぼします。これと同列に考えることはできませんが、右肩上がりの経済成長や年功序列の人事システム、さらには従来の会計制度や経営手法などさまざまな社会環境が人間の価値観の形成に影響を与えてきました。このような一度身についた価値観や習慣は簡単に変えることができるのでしょうか?もちろんどんどん変革していく人もいるでしょう。しかし多くの場合は一度身についた習慣を捨て、根本から変わるということはなかなか難しいのではないでしょうか。それゆえに、大きな変化への社会的適応に際して世代交代という現象が起こるのではないかと思います。

(世代交代には世代間の協働が欠かせない)
世代交代というと少々物騒に聞こえるかもしれませんが、社会のリード役の変更にすぎません。これまで社会をリードしていた人がお役ご免になるということではないのです。新たなリーダーが力を発揮するためには、これまで社会を築いてきた人々の人脈経験知力財力の絶大なるバックアップが必要です。歴史上のさまざまな革命や改革、さらにはベンチャー企業の発展も、さまざまな世代の積極的な支援があって成り立ったものがほとんどではないでしょうか。つまり、世代交代は世代の対立を生むものではなく、時代に即した発展的フォーメーション変更に過ぎないのです。

(失われつつある日本的経営のDNA)
かつて「日本的経営」と言えば長期的視点に立った経営の代名詞でした。しかし、現在では日本的経営=長期的視点に立った経営と胸をはって言える状況ではないように感じます。グローバル経済環境の大きな変化の中で、右肩上がりの経済成長や含み資産を背景とした旧来型の日本的経営を志向し続けるのは不可能になりました。企業会計制度についてもそういった環境変化への対応として連結会計や時価会計、四半期開示などの導入が進んできましたが、その過程で私たちが脈々と受け継いでいくべき「社会の協調と持続発展を重んじる日本的経営」のDNAを失っていったのかもしれません。

(新たな日本的経営の創造に向けて)
一方、IFRSという会計基準の考え方は、経営の役目を事業資産の持続発展にあることをより鮮明にするものであり、世界的な持続発展可能社会の実現に向けた流れに沿ったものです。私なりの理解を、ある企業経営者の方にお話した時など、「それは昔から日本企業がやっていた経営の考え方に通じるところがあるね」との感想をいただいたことがあります。かつての日本的経営を体現されていた方々にとっては、より受け入れやすい会計基準かもしれません。また、多感かつ学習力旺盛な価値観の醸成時期にインターネットやグローバル金融危機などを経験した世代から公益資本主義やサステナビリティー社会など長期的視点に立った社会のあり方に対する関心を強く持つ人々がたくさん出始めています。

金融至上主義の経済がほころびを見せた今こそ、新しい価値観を持つ世代と日本的経営のDNAを持つ世代が協働することで新たな日本的経営を切り拓く好機と信じます。(終)

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