2009.04.28

第73回 (A) “ゾンビ経済(Zombie Economy)”脱却の処方箋【経営・会計最前線】

取締役 兼 社長室 室長 川本 一郎

【未だに日本に巣食う”ゾンビ経済”とは】
昔、日本で「バブル崩壊」後や「失われた15年」(最近は10年でなくこういう呼び方が増えた)に公的支援を受けて延命した銀行を”ゾンビ銀行”、その追い貸しにより本来は債務超過だが生き延びている企業を”ゾンビ企業”と海外に揶揄されていたのはご存知だろうか?

実は、この言葉が百年に一度と喧伝されるグローバル規模の金融危機により世界各地で公的支援を受けるはめになった自国の企業に対して用いられるなど、復活してきているようだ。

しかし、最初はあたかも対岸の火事の如く静観していた日本でも、時が経つとともに震源地である米国以上に景気が悪化してきた。直近四半期のGDPの対前年比率は先進国中最も落ち込んでおり、輸出急減で28年ぶりに経常収支が赤字化するなど、「輸出産業」に頼りきっていた姿を露呈し始めている。

内需拡大による構造改革を謳った前川レポートが出たのは20数年前だが、日本経済がまさに「バブル崩壊」や「失われた15年」の間も生き延びた”ゾンビ企業”に頼るしかない”ゾンビ経済”であるという実態が明らかになってしまった。

【安楽死させるためのセーフティーネット】
本来であれば市場のメカニズムにより生産性の低い企業が淘汰され、それに替わる新しい企業が参入し、新たな産業を形成するという適切なメタボリズム(新陳代謝)が起こるはずである。

しかし、ある経済学者の実証研究によれば日本では市場を退出した企業の「全要素生産性」(経済学上、潜在成長率を決めるもっとも重要な要因とされる)が生き残った企業よりも高いそうである。つまり、ゾンビ企業が追い貸しで延命する一方、新規企業は資金調達が困難なまま廃業に追いやられているらしい。

市場は単純に売り手による「価値の表示」と、買い手による「評価に基づく選定」が機能していればいいという訳にはいかない。インフラとしての情報開示、新規参入を支えるエンジェル税制、不公正取引の監視といった機能を揃えなければならないし、延命を防ぐのに何よりも大事なのは退出したときのセーフティーネットである。

しかし、このセーフティーネットが日本では甚だ貧弱である。倒産法制こそ90年代後期から05年まで一連の企業再編法制と倒産法制の立法・改正により企業再生の「道具」としてのお膳立てが整いつつあるが、正社員の解雇に対する過剰な規制による労働市場の機能不全はその最たるものであろう。これにより、キャリアパスが固定化し再チャレンジも困難となるなど、倒産に対する日本の社会的影響・心理的負担は米国とは比較にならないほど大きい。

メタボリズム向上には、未だ大量に残っているゾンビを安楽死させ、ヒト・モノ・カネを新しい企業、ひいては新しい産業に移動させる必要があるのに、安楽死させるには忍びないという「思いやり」が麻酔薬注入でなくICU(集中治療室)で無理やり延命させる結果となっているのである。

【チャレンジ精神の発掘】
前述した話はいわば、”ゾンビ経済”脱却に向けたセーフティーネット構築における法制度面での不備を指摘したものであり、企業人である我々に出来ることは少なく、この記事の本旨ではない。

メタボ改善に関して事業経営に携わる立場から言わせてもらうなら、積極的な新規事業への取り組みによる持続的成長の重要性は論を俟たない。必ずしも起業による新規参入でなくとも大企業が事業ポートフォリオの組み換えを推進することはメタボリズム向上につながる。

例えば、大企業として画期的な創業二百周年を今世紀初頭に迎えたデュポンの場合、創業家の最大の功績は「変化を尊ぶ企業文化の醸成」と「自己否定を容易にする経営の仕組みの開発」と言われている。それが火薬から自動車に始まり、ゴム、ナイロン、テフロンと画期的な新製品開発と業態変革を進めてきた要因であり、このような企業が増えれば市場退出が少なくとも容認されよう。

先ほど労働者の再チャレンジの困難さもメタボ悪化の原因と書いたが、ある政府調査では、一度目の創業と比べ再度起業する場合の資金調達が極めて困難というデータがある。例えば、初めての起業では三割の起業家が民間金融機関から借入を、同じく二割が親企業から出資を受けているのに比べ、一度失敗した起業家に対する資金調達環境は途端に厳しくなる。民間金融機関の借入は1%強、親企業の出資にいたってはゼロである。

【モノサシで測れない「チャレンジへの評価」】
もちろん単純な比較はできないが、シリコンバレーの投資家は、一度失敗した起業家を初めて挑戦する人より高く評価するのが一般的であり、彼我の「チャレンジへの評価」に対する考え方の違いは際立っている。

数年前の話だが、あるTV番組で、60人以上のノーベル賞学者を輩出したMITの教授を勤める日本人の方が、米国の大学で教授として終身在職権(テニュア)を得るための大変さを語っていた。米国では、「それまで誰もやっていなかった分野を切り開いた」パイオニアであることが重要視されるのに比べ、日本の学界は、敷かれたレールの上での「点数」もしくは同じモノサシで計測した結果の比較によって評価されるらしい。つまり評価の「軸」が全く異なるのである。

「独創的なことをやればやるほど、誰にも理解されない、孤独な境地に入っていく」とのこと。「そうなったら、しめたものだと思う」心が大切と説く。

まさに経営の一翼を担う者としてはこのような思想を持つ人財をきちんと評価できなければならないし、何よりある面こういう思想を持たなければならない。この心構えが”ゾンビ経済”からの脱却につながるものと信じたい。

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