2009.12.25

第89回 (A) 今年の流行語「草食男子」ならぬ「草食系企業」はこの不況を切り抜けられるか?【経営・会計最前線】

取締役 ビジネスソリューション ユニット長 兼 社長室長 川本 一郎

毎年、辞書を発行する出版社が流行語大賞なるものを発表している。今年の大賞は「政権交代」だったが、同時に発表したトップテンの中に「草食男子」があった。なるほどコラムニストの深澤真紀さんの3年前の造語らしいがメディアに頻繁に登場したのは今年からだろう。そこで「もしや」と思いGoogleで「草食系企業」と検索してみると、予想通りに言葉は存在していた。

積極的な投資で規模拡大を追求する「肉食系企業」に比べ、資産を所有せずに事業拡大を狙うITサービス企業という意味合いだったり、競争を前面に押し出す「肉食系社員」ならぬ「草食系社員」による「心地よいコミュニケーション」を軸にした組織を指したりと言葉の定義は明確ではないものの、この不況を乗り越えることを考える上では面白いキーワードだと考える。

実際幾つかの論調が存在し、この言葉をネットベンチャー企業と捉え、規模を競ったトヨタやソニーが氷河期を迎えているのとは対照的に、大量消費や所有と無縁の「草食系消費者」を囲い込んで新たな環境に適応していく企業が増えているという解説自体に異論はない。

しかし、一方で積極的に投資せず、資産を所有することもない「草食系企業」を今後のあるべき姿と礼賛する論調には多少なりとも違和感を覚えた。これを「リスクをとらずにリターンを狙う」企業が増えることを指すならば日本の産業育成上、悲観的にならざるをえないからだ。

悲観的になる理由は3つある。

まずは当たり前の話であるが、投資せずに海外市場に進出することはほぼ不可能である。つまり投資しないなら縮小一方の日本市場しか相手にできない。ところがよく取り上げられる厚労省の中位推計では2055年までに人口が9000万人と約3割減って、生産年齢(15歳~64歳)人口に至っては46%減(ほぼ半減)の4600万人まで落ち込むと推計されている。移民でも増えてこの前提条件が変わらない限り、日本市場に残留したとしても中長期の成長は見込めない。

次に、ネットベンチャーがリスクをとっていない訳では決してない。米系コンサルティング大手のブーズ・アレン・アンド・ハミルトンが、定期的に実施しているグローバル・イノベーション調査では、売上高に占めるR&D費※比率(’07年時点)を業界セクター別でみるとソフトウェア・インターネット業界が13.6%と一番高く、ヘルスケア業界の13.4%、コンピューター関連・電子機器の7.0%と続く。実際、グーグルやマイクロソフトでも各々12.5%、14.4%(’08年時点)となっている。製造業ほど資産や設備を持っている訳ではないが商品開発以外に知財・人財に多大な投資をしているのである。(ちなみにR&Dの絶対額では製造業を代表するトヨタ自動車が世界で一番多い84億ドルを計上しているものの売上高比率でみると3.6%に過ぎない)

最後に、リスクをとらない風潮がはびこることが一番危機的である。「リスクをとらないことがリスク」と言う経営者は多いが、失敗を恐れ何もしないことが低い収益性や事業責任のあいまいさの放置につながり、成長機会を奪うことを身を持って体感しているのだろう。企業としても産業全体としても経営資源を低い収益性の事業から新しい事業へリスクをとりながら積極果敢にシフトし続けることで高い収益成長を保つことが出来る。そのためにはリスクに果敢に挑戦する企業風土と適切な事業性評価による投資管理体制が不可欠である。そこでは決して「心地よいコミュニケーション」ではなく、お互いに切磋琢磨し、本音と論理でコミュニケーションできる風土があるはずと考えるが、如何だろうか。

結局、「草食男子」なる言葉はせめて男女関係だけにして、社員や企業自身はリスクを積極果敢にとる「肉食系社員」「肉食系企業」でいくべきではないだろうか。但し、残念なことに現在の日本企業は相当委縮している。先の調査でもR&Dの売上高比率は米国企業全体で4.8%なのに比べ、日本は0.1%下がって3.6%と逆に微増した欧州に並ばれた。政治の世界でもモラトリアムなど不振企業の延命策がとうとうと語られ、成長策が見えてこないとの論調が多い。

弊社もこういう時代だからこそ、成長に向けた投資を着実に実行中である。昨年末に米国西海岸に開発拠点を設置したのを皮切りに、従来の連結会計領域にとどまらない統合DWH/BI製品を先月にリリース。今後も新規投資による商品開発を積極的に継続していく予定である。もちろん全てが成功することはありえないだろう。でも挑戦することによって初めて成長機会が与えられる。「草食系企業」のままではその機会さえ奪われかねないのである。

※R&D(Research and Development)費:研究開発費

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