2010.04.21

第97回 (A) 投資家視点でみるIFRS【経営・会計最前線】

ビジネスソリューションユニット IFRS推進事業グループ長 公認会計士 斎藤 和宣

新聞・雑誌を含め各種メディアや書籍に登場しているIFRSですが、本メルマガの読者の多くが企業の経理や財務の実務を担う立場でIFRSを捉え、また解釈していることでしょう。そこで本日は、ちょっと視点を変えて投資家という視点でIFRSを見た時にどのような意味を持つのか少し考えてみたいと思います。

まず、本来のIFRSの意義は、『伝統的な “会計”の枠を超えて、企業価値の適切な財務報告を目指している』ことにあります。これはIFRSを理解する上で、非常に重要なポイントです。つまり、投資のための企業価値評価という視点でIFRSを捉えることが重要になってくるのです。

その背景としては、昨今の経済社会はグローバル化が進み、資金調達のマーケットは国や時間を超えて1つになっていることが起因しています。そのため、具体的な方向性やモノサシを示さないと各国の会計基準がバラバラとなり、様々な問題が想定されるため、それを防ぐためには統一的な基準を用意することが必要だったのです。

そのようなニーズが、21世紀を迎えるころから急速に高まりました。そしてご存知の通り2000年5月に世界の証券監督当局などからなる証券監督者国際機構がIFRSの前身にあたるIAS(国際会計基準)への支持を表明したのを機に統一会計基準への注目が高まり、2001年に国際会計審議会(IASB)が設立され、2005年にEU域内の適用が始まったことが現在の一気の拡大につながっているのです。

IFRSにはその基本的な理念を示しているフレームワークというものが存在しますが、そこでは、「財務諸表の差異をなくすために基準を同一化すると同時に、財務諸表が意思決定のために有用な情報かどうかということを判断基準として、同一化を進めなければならない」といった考え方が示されています。またさらに、情報提供の対象者となる利害関係者が多数存在するなかでも特に投資家に焦点をあて、「投資家の情報要求を満たすことによって、他の利害関係者の情報要求にも応えられる」とも書かれています。

このことからIFRSでは、財務諸表を「投資意思決定のための企業価値情報を表すためのもの」と位置付けていることがわかりますし、企業の実態を表すべく透明性の向上を目指して、従来の会計基準では可能であったルールのすり抜けを防ぎ、経営者の恣意性を排除するような仕組みになっています。

つまりIFRS採用後は、投資判断をする上で非常に有用な情報が提供され、投資家にとっては現行よりも透明性の高い基準となるのですが、それを具体的に見ていきます。

まずは、財務諸表の表示が投資家にとって有用なものへと大きく変わることが挙げられます。貸借対照表は財政状態計算書へ、損益計算書は包括利益計算書となりますが、投資判断に重要な『資産/負債の公正価値』を反映するのが財政状態計算書、そして『その増減を把握するための内訳表として包括利益計算書がある』という位置づけになっています。

従来の純利益が、収益から費用を差し引いた損益計算であったのと比べて包括利益は当期末と前期末の純資産の増減を表し、利益剰余金だけでなく持ち合い株を含めた有価証券の評価差額や海外子会社の為替換算の影響から計上される為替換算調整勘定など、資産/負債の価値変動も損益と捉えて計上するのは周知の通りですが、これは従来の日本基準では包括利益に該当する項目が純資産に計上されており、その増減については表示がされておらずいわば”隠れた形”になっていたものが、包括利益計算書の導入で透明化することになるのです。

次に、以下に述べる利益の内訳表示の変更も投資家の投資活動に寄与します。

1点目は継続事業と非継続事業の区分表示です。撤退や売却などである事業の打ち切りが決まっている場合などには、それに関する損益を非継続事業として区分表示する必要がありますが、投資家にとって企業の本業として継続される事業とそうでない事業とをわかりやすく見せる工夫がなされているのは大きな利点です。

2点目が特別損益項目の表示です。従来特別損益に計上されていたものが、IFRSでは大抵のケースで営業損益計算に含まれることになります。日本のビジネス慣行では、いわゆる”経常(けいつね)”が重要な指標の1つとなっているため『何とかその数値を良く見せたい』という経営者の意向が働き、特別損失という形であたかも例外的に発生した損失として計上される場合がありました。ところがIFRSでは、その損失の多くが営業損益として区分され、恣意的な”お化粧直し”ができなくなります。この思想は上述した継続事業/非継続事業とも関連しますが、『本業から発生した損益は営業損益』に含むべきという考えがあり、IFRSではそもそも特別損益項目の表示はされないためですが、これも通常の営業活動(本業)の状態を投資家が把握する上で非常に有用です。

最後にこれは確定ではありませんが、財務諸表の表示に関しては、以下のような変更が検討されています。

(1)事業活動、財務活動および非継続事業に関する情報を区分して表示します。さらに、事業活動は企業の本来の事業である営業部分と有価証券などへの投資部分に区分して表示します。
(2)財務諸表の表示に一体性を持たせるために、事業/財務などの区分は、財政状態計算書および包括利益計算書間で統一します。

このように財務諸表に区分を設け、かつ同様の区分で表示することにより、企業の活動を一体性のある形で見ることができるようになります。つまり、資産/負債と収益/費用の間の関連が明確になり、どの程度の資産/負債から収益が産み出されたかという収益力も理解しやすくなるのです。

以上のようにIFRSは企業の本当の姿をわかりやすく示そうという思想のもと構築されています。多くのメルマガ読者が、直接・間接的にIR活動にも携わっていることと思いますが、投資家が何を基点に財務諸表を読むのかを普段から考えておくことは重要なのではないでしょうか?また違った視点でIFRSを眺めることでその理解を深めることもできると考えています。

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