財務マネジメント・
サーベイからの考察

CFOはどのような役割を果たしているのか?——③グループガバナンスとリスクマネジメント

 CFOにぜひ果たしていただきたい役割の三つ目は、グループガバナンスとリスクマネジメントである。昨今の企業不祥事を見ていると、多くは子会社などがその発端となっていることが多い。親会社という組織の中心については統制を強めているものの、グループの周縁には目配りが利いていない状況にあるのかもしれない。グループガバナンスの要諦としては、リスク管理が的確に行われていること、内部監査が有効に機能していること、経営管理機能が適切であることなどが挙げられると思われるが、これらの状況について見てみたい。まずはCFOによるリスクマネジメントの管掌状況からである。

 傾向としては、事業ポートフォリオマネジメントと同様、売上高規模1兆円以上の企業においては、CFOがリスクマネジメントを管掌する割合がかなり高くなっている(図15)。一方、「その他・分からない」という回答が全体的に多かったのも気になるところである。また、リスクマネジメントについて取締役会で議論をしているかという点もやや心もとない。

図15 CFOによるリスクマネジメントの管掌状況

 グループ企業も含めた全社のリスクマネジメント体制の整備については、コーポレートガバナンス・コードにおいても取締役会で議論すべき事項として挙げられているが、実際に議論しているのは約5割である(図16)。もう一つ、昨年のコーポレートガバナンス・コードの再改訂において要請された事項は内部監査の強化であるが、こちらも同様に5割弱は、いわゆるデュアル・レポーティングがなされている状況だと見て取れるが、特に小規模の企業においては体制の未整備が目立つ状況となっている。

図16 取締役下でのリスクマネジメントの議論状況

 経営管理システムについてもこうした傾向は一層顕著だ。売上高1兆円以上の企業が着々と整備を進めている状況で、小規模の企業においては取り組みの遅れが目立つ結果となっている(図17)。経営管理システムに問題があることはどの企業も認識しているが、これに対処できる有能な人材は奪い合いの状態にある。資金的にも人材的にも余裕のある大企業にリソースが集中している状況がうかがえる。

図17 経営管理システムの整備状況

 最後に、経営管理関連の様々な分野において「中長期的に注力・強化していくべき分野」と「現在、課題を感じている分野」について挙げてもらった結果を見てみたい(複数回答)。どちらにおいても断トツの分野は「人材育成」である。中長期的に重要だと認識されているが、その課題もまた断トツで多いということだ。2019年のサーベイにおいては「人材育成」は3位であり、1位が「投資モニタリング」、2位が「経営情報システム」であったが、この数年で企業にとって“頭の痛い問題”は明らかに「カネ」から「ヒト」に移ったともいえる。「人材育成」の突出ぶりが目立つので分かりにくいが、その他の人事関連分野も軒並み上位に来ている。少々うがった見方をすれば、これまで手つかずだったこの分野が、政府の旗振りによる働き方改革に始まり、コロナ禍によって実際に大きな変化に直面し、従業員の意識も変わってきたことからようやく動き出したとも言えよう。これには、ここ数年のコーポレートガバナンス改革による「マネジメント・トレーニング」の要請、すなわち経営人材育成への注目も影響しているように思われる。また、昨今の人材争奪戦の激化を反映して、人材採用も2位に入っている。

図18 経営管理における課題

 同じく、2位に入ったのは「全社戦略策定・評価」と「サステナビリティ」である。この2つは今や本社における悩みの双璧なのではなかろうか。前者については、先ほどの事業ポートフォリオマネジメントにも深く関係する分野であるが、前回から継続して関心も高い。一方、サステナビリティについては、ESG投資の流れに沿ったものであり、企業にとっては経済的価値と社会的価値の両立がより重要となってきていることを意味しよう。また、投資家や従業員をはじめとするステークホルダーへの対応についても重要視されるようになってきていると言える。ちなみに、「サステナビリティ」については「ESG・CSVを含む」とし、一方でCSRについては「社会貢献」のジャンルに入れて質問を設定したが、この両者の違いについての認識は浸透しているようである。

 課題分野として上位に来ている分野としては、他に「投資判断」、「予算策定」や「財務・資金管理」などである。CFOのお膝元の業務ではあるが、旧態依然とした取り組みがなされており、改善の余地が大きそうな様子がうかがえる。特に予算策定プロセスは、事業ポートフォリオマネジメントやグループガバナンスなどにも本来は大きく関わる一方で、現在求められているそれらへの対応とはかけ離れた作業をこなすために、莫大な労力と時間をかけている業務とも言えよう。予算策定プロセスのみを取り上げて改善を図るのではなく、前述のマネジメントサイクルや、全社戦略策定・評価を考える大きな流れの中で、時代に合ったアップデートが必要なのではないかと思われる。

 一方、モニタリングを行った上で、もし状況が思わしくなければ撤退を考えることもあり得るが、そのための基準などはあるのだろうか。こちらはやや悩ましい結果である。活用できているのはわずか1割程度にすぎない(図14)。大半の企業が何らかの段階で手をこまねいている状況だ。「その他・分からない」の多さは、仮に存在していても、社内に浸透していない証左であるかもしれない。また、投資撤退基準に至っては、「専業なので設定する必要がない」という論理は成り立たないはずなのだが、そうした回答も8%ある。事業ポートフォリオマネジメントに対する投資家をはじめとする外部からの期待は、「企業価値向上に資するような事業でなければ撤退も検討する」であるはずだ。そのための基準が活用されていないというのは問題と言えよう。気が進まないというのはよく分かるが、定量的な基準がなければ事態はよりややこしくなるばかりだ。少なくとも、まず自動的に俎上に載せてしまう仕組みが必要だろう。

[調査の概要]

テーマ:グループガバナンスと事業ポートフォリオマネジメント2022
調査実施:一般社団法人日本CFO協会
調査協力:株式会社ディーバ
調査対象:日本CFO協会会員を主体とした日本企業の経理・財務幹部
有効回答者数:221名
調査期間:2022年2月22日~2022年3月11日

[回答者のプロファイル]

業種:サービス15%、電気・通信・精密機器12%、商社9%、機械8%、化学7%、鉄鋼・金属5%、建設5%、食品5%、小売業5%、医薬品5%、不動産4%、銀行・証券2%、その他18%
売上高:1兆円以上12%、5,000億円以上~1兆円未満8%、1,000億円以上~5,000億円未満31%、100億円以上~1,000億円未満30%、100億円未満19%
グループ従業員数:5,000人以上34%、1,000人以上33%、500人以上9%、100人以上15%、100人未満8%

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