財務マネジメント・
サーベイからの考察

松田 千恵子

東京都立大学大学院 経営学研究科 教授
一般社団法人日本CFO協会主任研究委員

 事業環境激変の中、企業を最も悩ませている課題の一つが「グループガバナンスと事業ポートフォリオマネジメント」ではなかろうか。昨年再改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいても、事業ポートフォリオマネジメントについての記載はさらに増え、投資家の視線も厳しくなる一方である。M&Aは既に特別な業務ではなくなってきているが、ディールが終わった後にはPMIの長い道のりが待っており、そこでは買収した子会社をどのように扱うか頭を悩ませることになる。これらの多くには、CFOおよびその傘下の機能部門が深く関係しているはずだ。だが、本当にそうなっているのだろうか。2019年に行った類似のサーベイとも比較しながら、CFO関連分野の最新状況を見ていくこととしたい。

図1 回答企業の売上規模
図2 回答企業の業種

CFOがいる企業の割合

 今回も、CFOという役職が企業に存在するのかどうかをまず見た。自社にCFOが「いる」と答えた企業は全体では39%と、2019年の割合と変わらない(図3)。一方、売上高規模別に見た場合には、売上高1兆円以上の企業においては実に74%がCFOを置いており、2019年に比べて著しく増加している。大企業を中心に、CFO機能へのニーズが高まっているようだ。一方、規模が小さくなるとCFOを置く企業の割合は2019年に比べてもかなり低くなっている。調査対象企業がそもそも違うので一概には比べられないが、相対的に規模の小さい企業においては、未だCFOという役職は一般的とは言いにくいようだ。規模の大小による本社機能のありかたが変わってきている可能性もある。また、前回は海外売上高の割合が大きい企業ほどCFOを置く割合が多かったが、今回はそうした特徴は見られなかった。また、専業か多角化企業かといった違いにおいても大きな違いはなかった。

図3 CFO がいる企業の割合

CFOはどのような役割を果たしているのか?——①M&A

 CFOという役職があったからと言って、我が国ではその職務内容がみな同じとは限らない。CFOはどのような分野で活躍しているのだろうか。あるいは、CFOがいることで業務遂行状況に違いは出てくるのだろうか。まずは分かりやすいM&Aの成否について見てみよう。

 M&A自体は企業における戦略の選択肢として既に定着したと言ってもよいようだ。実に75%もの企業がM&A経験ありと答えており、そのうち27%は10件以上のM&Aを行っている。30件以上行っていると答えた企業も13%あり、事業ポートフォリオマネジメントの一つの手段として多く使われていることが見て取れる。

 では、CFOの有無とM&Aの経験についてはどうだろうか。図4を見ると、CFOがいる場合の方がM&Aの経験値は高くなっている。CFOは大企業に多いことが理由ではなく、どのような規模の企業においても同様の結果であった。

図4 CFO の有無とM&A経験

また、M&Aの成功度についても、CFOの有無ではさほど差がつかなかった(図5)。

図5 CFO の有無とM&Aの成功度

 CFOの有無を離れて、M&A自体について見てみよう(図6)。M&Aの成功度については、2019年のサーベイにおいても回答を得ているが、その当時と比べると、若干ではあるが日本企業のM&Aの成功確率は全体的には上がっているようだ。もちろん、主観的な回答ではあるし、差について統計的な有意性はない。むしろ、「M&Aの成功確率は約3割」という、よく言われている経験則があらためて裏付けられた結果となったと言えるだろう。

図6 年別M&Aの成功度

 この結果は、専業であるか多角化企業であるかを勘案してもそう大きくは変わらない(図7)。ただ、若干の違いにこだわるならば、やはり多角化企業におけるM&Aの方が難易度は高いようだ。この傾向も、2019年当時と変わらない。多角化企業における事業ポートフォリオマネジメントはやはり頭の痛い問題であることが分かる。

図7 専業・多角化企業別M&Aの成功度
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